2023-09-14

東京土建一般労働組合新宿支部会館 建替えのデザインコンペを終えて

実力テストのつもりで、久しぶりにコンペに挑戦しました。現在69 歳にして建築を志してから早50 年。
光陰矢の如し、時が過ぎるのは本当に速いものです。この挑戦はフランク・ロイド・ライトに憧れ、彼がそうであったように、70 代になっても活躍できる職業として、建築設計を志した私の60 代最後の特別なチャレンジでした。長いキャリアを振り返りながら、若いころの情熱を取り戻し、新たなアイデアを探求する作業でした。
コンペの資料を受け取り、まずは設計条件を熟読し理解することから始めました。これはコンペに限らず、通常の案件でも必ず通る道。最終目的がどちらも建築物を作ることなので、当然と言えば当然です。コンペだからといって、ショートカットできる要素はありません。



敷地条件の整理、建築基準法令の整理、東京都安全条例・新宿区の条例、施主の要望の整理。それらの条件から浮かび上がってきた形態をデザインに落とし込む作業。これらの作業を時間の許す限り、何度も何度も繰り返しました。


防災について? エコについて? 公共性について? 事務所としての機能・作業動線? など、重要な要素を頭に描きながら、窓の位置、床、壁、天井、外壁の仕上げ材料などの細部にも目を向け、機能性と美しさを両立させるデザインは何か? また設備の配置にも配慮し、配管ルートがスムーズに施工できるような工夫もしなければ!電気設備や施工コストにも配慮しながら、最適な構造は何か?

鉄筋コンクリート造・鉄骨造・木造、あるいはそのハイブリッドなど、夜中には夢の中でも考え込んでしまう自分がいました。途中、堂々巡りの袋小路に突き当たると、新宿支部会館の周辺を訪れ、土地の雰囲気を感じ取りました。答えのヒントは現場にあることが多々あります。地域の歴史やニーズはネットでいくらでも検索できるいい時代になりましたが、風土は現地に行かなければわかりません。地域の一員としての建物をデザインする責任を感じながら、地域の特色を反映させるデザインを模索しました。これらの要素を丹念に整理することで、コンペにより適切な提案を行う自信が持てました。


平面・立面と形が決まり、色も決めて、スタッフに見てもらいました。彼らの意見を取り入れながら、さらなる改善を図りました。私たちの土建組合は、夜に集まることが多いので、夜間のイメージも大切との提案がありました。練り直して、夜景のパースを準備し、提出する案が「灯り(あかり)の箱」というコンセプトで確定しました。このコンセプトは建物内外の明かりを重視し、夜間にも美しく輝く建物を目指したものです。自信を持って提出できましたし、当落関係なく納得した案となりました。


建築設計者として、各社の提案が施主にとって最良の選択肢であることを示すために真剣に取り組み、建築に情熱を傾ける設計者がこんなに多くいることも嬉しい驚きでした。共に建築を追求する仲間たちと交流できることにも喜びを感じました。コンペに参加することで多くの学びと成長が得られたと思っています。


新宿支部の方々が、設計者の作業に対し慰労のレセプションを計画してくださいました。同じコンペを戦った同志の設計者たちと交流し、設計者と施主の気持ちが一つになった一体感を感じました。各社の作品を見て異なるデザインアプローチに触れることは刺激的でした。お互いの提案が他の設計事務所の方にもインスピレーションを与え、与えられた気がして、設計者冥利に尽きる時間を過ごすことができました。私自身も70 歳、80 歳、90 歳とフランク・ロイド・ライトに負けずに頑張ります。これからも建築の世界で情熱を注ぎ続け、建物が人々の心に寄り添い、共鳴し続けるような設計を追求したいと心から願っています。

歳を重ねるごとに深まる洞察力や経験を活かし、これからも作業を続けていきたいと思います。そのためには、ボケてなんかいられません!

株式会社ランドテック一級建築士事務所 中山 勲

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